ポリファーマシーを防ぐには①入院時

例えば薬A、B、Cを内服していたとします。すると、とある症状が出てきました。それは薬Aの副作用だったのですが、Drは気づかず、その症状を抑えるために薬Dが処方されました。さらに、薬Dは長期間内服していると副作用が起きやすいと言われているため、予防として薬Eが処方されたとします。これであっという間に内服薬が5剤になってしまいました。

しかしこの症例、最初の症状が薬Aの副作用だと気づき、副作用が起きない別の内服薬に変更していればこんなに薬が増えることはありませんでした。このように、滝が流れるかのようにどんどん発生する症状に対して内服薬が増えていくことを“処方カスケード”といい、多くの薬を内服していることを“ポリファーマシー”といいます。

一般的に6剤以上内服しているとポリファーマシーと言われています。

近年このような事例が増えているため、Drに対して中止を依頼する薬剤師も増えていると思います。今回は私が行っているポリファーマシー対策について順を追ってお話ししたいと思います。今回は『入院時』編です。

①鑑別

患者さんが入院してくるタイミングで内服薬の鑑別(どんな薬をどのように内服していたか確認する作業)を行います。この時に『不必要な薬を内服していないか』検討しながら鑑別を行います。私が思う『不必要な薬』は、胃薬や鎮痛剤、眠剤や漢方薬が多いです。理由は『継続して内服し続けなくても良いことが多い』ためです。

以前私が担当した患者さんで、胃薬を4種類内服している患者さんがいました。患者さんに聞いてみても特に理由は分からず。。。そのためDrに相談して2剤減らしていただきました。

鎮痛薬は、「前に腰痛で辛かったときに処方してもらったけど今は痛くないよ」というように、一時的な症状に対して処方された薬が定時処方となり、ずっと内服し続けてしまっているケースが多いです。そのため、鑑別時はそのような薬がないか確認します。

②患者さんと会話

上記のように、胃薬を4剤内服していて『これは流石にいらないんじゃないかな』と思うような処方であっても、まずは患者さんに話を聞かないと真実はわかりません。患者さんが「かかりつけ医と相談してこうなったんだ」とおっしゃるのであれば処方中止依頼は難しくなります。

私は病院に勤めているため、入院してくる患者さんは自宅の近くのクリニックなどをかかりつけ医にしている方が多いです。そのため、会話が可能な患者さんであれば直接患者さんと話をして、内服薬をどうしたいか相談します。

以前担当した患者さんで、寝る前に芍薬甘草湯を内服している方がいらっしゃいました。「なぜ内服しているかわかりますか?」と尋ねると「前の病院で、足がつるって言ったら出たよ」とおっしゃいました。今はどうか聞くと、まだ足は時々つってるよ、とのこと。薬の効果が見られないため中止しても良いかもしれませんが、内服しているから“時々”ですんでいるのかもしれません。この時は、患者さんと話を続けてみると「粉薬が飲むの大変。飲みたくない。」と話されたので、Drに中止依頼をしました。

「自分は今内服している薬に満足しているから減らして欲しくない」とおっしゃる方もいるので、Drとの相談だけで内服薬を減らすようなことはできません。事前に患者さんと会話し、「この薬はいらないかな」と言われればDrと相談するようにしています。

③入院時カンファレンス

当院では、患者さんが入院して(病棟に来て)1週間以内に、入院時カンファレンスが行われます。基本的にDr、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリが集まり、『どのような疾患で、どのような治療をしていくのか』『この患者さんの気をつけるべき点は何か』『家族のケアは可能なのか』などについて話し合われます。

このタイミングで「〇〇という薬を内服していますが、今症状が安定しているため中止の検討をお願いします」というように伝えます。Drはそれを聞いて「じゃあ中止しようか」や「まだ飲んでいて欲しいな」など検討してくれます。

④患者さんにフィードバック

内服薬が中止になった場合、急に薬が減ると驚く方もいらっしゃいます。「あれ、寝る前の薬がないけどなんで?」ということが多いと、患者さんも不安になってしまいます。「Drと話をして、症状が落ち着いているのでこの薬が中止になりました」というように説明するようにしています。

また、患者さん側から「この薬いらない」と言ってくださることもあるため、その時も「Drから許可が出たので内服中止で大丈夫です」と言って報告しています。

入院した時というのは、基本的に入院前に内服していた薬を持ってくるため、かかりつけ病院=入院している病院でない限り『なぜ処方されているのか』について分からないため、検討することが大切だと思われます。Drは症状や患者さんの状況など、すべてを見た上で適した薬を処方します。薬剤師は薬からどのような症状なのかを判断します。双方で話し合いをし、検討することで患者さんに適した処方になるようにしていきたいですよね。もちろん、1番は患者さんの思いなので、フィードバックも忘れずに。

次回は『入院中の減薬』について書きたいと思います。

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